革新的触媒製造プロセスでエチレンイミンを製造

世界で日本触媒だけが気相脱水反応で生産する、エチレンイミンの製造プロセスはこうして誕生した!

世界で初めて確立したエチレンイミンの製造技術

1959年にスタートして以来、60年以上の歴史を持つ日本触媒の酸化エチレン事業。
これだけ長く一つの事業を継続することができた要因の一つに、酸化エチレンから数多くのユニークな誘導品を生み出してきたことがあります。企業として「技術立社」をスローガンに独自の技術にこだわり続け、そうした中で、確かな知見と熱意にあふれる研究者の努力の積み重ねの歴史がありました。

「研究者として大切なのは、あきらめないこと」
──エチレンイミンの画期的な製造プロセスを開発したTさんも、そういった研究者の一人でした。

企業化技術は確立……なのに、企業化は断念

当時、エチレンイミンは1969年に当社で事業化に成功して以来、用途が幅広く、高付加価値製品として、日本触媒にとって期待の製品の一つでした。

しかし、当時の製造プロセスである液相法には大きな課題がありました。実は大量の廃液を排出してしまうプロセスだったのです。
そこで川崎製造所は、需要が高まるエチレンイミンの製造について、何とか廃液の出ない製造プロセスに転換できないかと考え、中央研究所の合成研究室にその開発を依頼しました。

1985年、Tさんをリーダーとする20代~30代の若手研究者のみで構成されたプロジェクトチームがスタートしました。
連日、実験を繰り返す中、Tさんはモノエタノールアミンから気相で脱水環化する画期的な触媒を開発し、その触媒を使った気相プロセスを考案します。

その後、順調に開発は進み、2年後の1987年に川崎製造所でのベンチテストにこぎつけました。しかし、未反応のモノエタノールアミン捕集工程において、モノエタノールアミンの回収ロスが多く、大幅なコストアップとなることが判明。ベンチテストはあえなくペンディングになってしまったのです。

検証の結果、回収ロスの要因はアミン濃度を一定に制御するために使用していたキャリアーガスが、捕集工程においてミストとなってしまうことでした。しかし、具体的な解決先はどうしてもわかりません。

意気消沈して大阪に戻るために寮で荷物をまとめていたTさん。その時です。彼にある考えがひらめきました。それは、キャリアーガスを使用せずに気相脱水するための反応条件でした。
Tさんは大阪までの新幹線で実験内容を考え、吹田に戻ると急いで実験を実施。状況をすぐに上司に報告しました。その結果、ベンチテスト再開の指示が出されたのです。
川崎にトンボ返りしてテストを再開したTさんは、見事に課題を解決し、技術を確立することができました。
その後、パイロット試験でのいくつかの課題を克服。やっと、1988年に事業化判断を出すことになりました。

しかし、事業部の判断は、「製法転換はできない」というものでした。
その理由は、開発したプロセスの設備費が高いこと、ユーティリティー費が高いことに加えて、直近に生産能力増強のため液相法の投資をしており、その負担から短期間での投資回収は不可能というものでした。
この時のことをTさんは、「事業部と償却を含めた製造コストの目標を共有していなかったことが失敗だった。でも、当初の製造所から依頼のあった廃液削減の意義はどうなったのかという疑問は残った」と振り返ります。

経営判断で研究成果に再びスポットライトが当たる

プロジェクトは中断してしまいましたが、研究者が長い時間をかけてたどり着いた研究成果は決してムダになったわけではありませんでした。
1989年6月、Tさんは川崎製造所長とともにエチレンイミンの新プロセスの件で、社長から呼びだされます。
その時Tさんは、開発した技術を企業化したいか?と社長から質問されたそうです。
「もちろんしたいです」と答えたTさんに対し、社長は企業化の条件は設備費の半減とユーティリティー費削減と告げます。
そこからプロジェクトチームは再開。いまだかつてない奮闘が始まります。モノエタノールアミン粗蒸留塔の廃止などのアイディアで、パイロットプラントに改造を加え、見事、設備費半減の目標を達成したのです。
1990年10月設備が完成。試運転を経て、ついに、世界ではじめての気相反応によるエチレンイミンの製造が開始されたのです。

このプロセスは世界初の実績であり、この研究によってTさんは後に、日本化学会賞と触媒学会の学会賞を獲得することになりました。

当社のエチレンイミンは、エポミン(ポリエチレンイミン)、ポリメント、ケミタイトなどの原料として使用され、これらの製品は今もさまざまな分野に貢献し続けています。

一人の研究者が、何度失敗しても最後まであきらめずに生まれたエチレンイミン。
日本触媒はこれからもこうした精神のもと、研究・開発・製造にまい進してまいります。

川崎製造所 エチレンイミンプラント
(当時の写真、現在も操業)