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アクリロイル基とビニルエーテル基という異なる重合性官能基を分子内に併せ持つユニークな構造のモノマー

UV硬化インクジェット技術の世界的な拡大に貢献した重合性モノマーはこうして誕生した!

1970年にプロピレン直接酸化技術によりアクリル酸の工業化に成功して以来、アクリル酸とアクリル酸誘導製品は、日本触媒を支える事業です。
これまでも多様な構造のアクリル酸エステルモノマーを生み出して、様々な業界に貢献してきました。
その中で、2004年の企業化以来、現在も拡大を続けているUVインクジェットインク市場において、その技術革新に大きく貢献してきた日本触媒のモノマーであるVEEA®の開発ストーリーを紹介します。

研究者の新しい着想から始まった研究

2000年 基盤技術研究所第2研究室に所属していたYさんは、新しいアクリル酸エステルモノマーとして、分子内にビニルエーテル基を有するモノマーを開発することを思いつきました。その当時、隣の研究室でビニルエーテル化合物の研究を実施していたこともあり、分子内に異なる重合性官能基を有することから、選択的に一方の官能基を重合することにより、ラジカル重合性基、あるいは、カチオン重合性基を複数保有する超高架橋剤を合成できると期待していたとのことです。

実験での合成検討は順調に進み、研究室でこのモノマーの特性について確認したところ、低粘度で非常に希釈性が良いことがわかりました。また、ラジカル重合開始剤だけでビニルエーテル基も重合することが判明し、UV硬化インクなどの反応性希釈剤として非常に有望であることが確認されたのです。

しかし、スケールアップ段階でいくつかの問題点が発生しました。対策を重ねても、次々と問題に直面する状況に、研究所内では、「このモノマーは本当に製造できるのか?中断した方がいいのでは?」という研究継続を疑問視する声もあったとのことです。

しかし、Yさんたちは、きちんと製造できれば、このモノマーは必ず売れるものになると信念をもって取り組んでいきました。その努力の結果、ようやくサンプルワークができる目途が立ち、顧客へのサンプル提供を開始したのです。

思いもよらないSNURの分類に、性能は評価されるものの…

2004年頃から、日本国内、米国、欧州の顧客にサンプルワークを開始して、VEEA®はそのUV硬化性とインク剤としての希釈性において非常に高い評価を受けました。
市場開拓を担当していたGさんは、この評価に確かな手ごたえを感じていました。
しかし、海外での販売のため、米国のTSCA(Toxic Substances Control Act Chemical Substance Inventory)申請を行ったところ、登録の際に、VEEA® はSNUR(Significant New Use Rules)に分類されてしまうのです。

当時は、あまりSNURに分類される事例がなく、これを知ったメンバーはかなりショックだったとのことです。
YさんとGさんは、SNUR分類に異議を申し立てるため、EPA(米国環境保護庁: Environmental Protection Agency)のワシントン本部まで乗り込み交渉しますが、EPAの担当者は、VEEA®の販売を抑制するほどのものではないと取り合ってくれません。
それでも、YさんとGさんは、SNURが付くことはVEEA®にとって致命的と考えていたため、とにかく必死でした。ビジネスが100かゼロかくらいの心境で、当局と粘り強く交渉して、条件の緩和を引き出すことに成功します。
しかし、SNURが付くことにより、Gさんたちの市場開拓は難しくなってしまいました。これまでの高い評価をもらえていた顧客が、VEEA®の採用に対して、一転、消極的になってしまったのです。

Gさんたちは、欧州、米国を中心に顧客を1社ずつ訪問して、SNURの啓蒙活動を続けました。いっこうに顧客から良い返事をもらうことができない状況に、日頃は温厚なGさんも苛立ちが積もり積もって、パリで持っていたPCを思わず、クソー!とセーヌ川へ投げ入れかけたほど、追い込まれていたとのことでした。

UV硬化インクジェット技術の世界的な普及により、やっと光明がさして

2008年頃から、世界的に印刷業界でのVOC規制への対応が盛んになり、欧州を中心にUV硬化インクジェット技術への注目が高まってきました。

UV硬化インクジェット技術においても、より高画質印刷へのニーズが高まる中で、インクを低粘度化できる反応性希釈剤へのニーズが急速に高まり、顧客でのVEEA®に対する注目度も徐々に高まっていきました。
さらに、2012年頃に、産業用インクジェットヘッドの大きな技術革新が提案され、高精細な画像向けにその技術が普及していくことになり、そのヘッドに適合するインクの要求仕様が大きく変化することになるのです。

インクメーカー各社は、要求仕様に合ったUV硬化インクの開発を検討しますが、吐出時のインクジェットインクの低粘度化が達成できない状況でした。
これに対して、VEEA®を使用すると極低粘度のインクでUV硬化性を落とさずに製造することができ、高画質インクジェットヘッドとの組み合わせでピコリットル単位の小液滴の吐出が可能になり、高精細の画像を実現することができたのです。
この特性が顧客の間で評価され、GさんたちのSNUR対応のための地道な啓蒙活動と合わせて、ようやく採用が広がることになりました。

関係者の真摯な思いがつなげた成功

Yさんは、VEEA®の開発について、次のように回顧しています。
「私自身、絶対成功させると信念をもって取り組んでいました。でも、多くの皆様のご協力があって初めて成しえたことです。信念をもって必死に研究開発を進めれば、困難にぶつかってもまわりの多くの人が支えてくれる会社なのだと思いました」

市場開拓を担当したGさんも、また次のように回顧しています。
「上市からなかなか販売量が大きくならず、VEEA®に対する社内の風当たりは強かったです。顧客の評価では高い評価を受け、VEEA®は多くのファンを持っていました。しかし、販売数量がなかなか伸びないため、役員からは『お前は、VEEA®は面白い、面白いと言うが、一向に売れないではないか』とか揶揄されたこともありました。それでも、VEEA®の性能に惚れ込み、厳しい状況でもプラス思考で活動できたことで、困難に打ち勝てたと思っています」

そこに、研究者の強い思いがあり、その思いに答えようとする営業担当者の活動が、VEEA®の成功に結びついたのです。

当社のVEEA®は、インクジェット印刷をはじめ様々な印刷方式のインク、プラスチックフィルムなどのコーティング剤、光学用粘接着剤など広い分野で貢献しています。