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オンリーワンのユニークな架橋性ポリマーが広い用途で機能向上に貢献

世界で日本触媒だけが製造しているオキサゾリン基架橋性ポリマーはこうして誕生した!

日本触媒の技術の強みとして、1つの基幹化学品から数多くのユニークな誘導品を生み出す技術力があります。「テクノアメニティ」を研究活動の中心に据えて、独自の技術で世の中に貢献し続ける研究者たちの熱意ある活動がありました。

「自分たちだからこそできた製品で、世の中に貢献できることに喜びを感じますね」
──オキサゾリン基架橋性ポリマー(エポクロス®)を誕生させたKさんもそういった研究者の一人でした。

海外の大手化学メーカーからの技術導入で始まった研究

1987年 当社の米国事務所にアメリカ大手化学会社であるダウ・ケミカルから技術ライセンスの案件が持ち込まれました。それは、オキサゾリンモノマーとそれを重合した架橋性ポリマーの技術導入というものです。
当時、当社はアジリジン系架橋剤の販売やポリオキシエチレンオキサゾリンの研究を行っていたことから、オキサゾリン基含有ポリマーに注目していました。
当社はこれまで他社から技術ライセンスを導入した経験がなかったのですが、自社技術との相乗効果を期待して、ライセンスインの最初のケースとしてダウ・ケミカルからの基本技術導入を決断します。

Kさんは、まさに、その重要な決断をしたタイミングで入社し、中央研究所の第3研究室に配属となり、この技術導入のテーマを担当することになるのです。
研修を終えて研究室に配属されると、分厚い英文のライセンス関係の技術資料が机に置かれていました。これを日本語要約した資料を作成しながら、一方、自分でもエマルジョン重合実験を行うのが、Kさんの当社での研究人生のスタートだったのです。

この研究は、オキサゾリンモノマーの製造技術確立と、それを重合した架橋性ポリマーの研究の2つに分かれます。いずれも工業的に製造された事例がなく、ダウ・ケミカルの基本技術を元に自分たちで構築するというものでした。
特にモノマー・ポリマーともにスケールアップの技術確立はハードルが高く、頼みのダウ・ケミカルの資料にも記載されている情報は十分でなく、Kさんたちは日々試行錯誤の連続だったのです。

それでも、1990年にはエマルジョンタイプ(エポクロス® Kシリーズ)の製造技術をダウ・ケミカルの基本技術を元に自社技術で改良して、製造を開始しました。このKシリーズは、大口ユーザーの獲得もあり、順調に販売されていきます。

非常識と言われた壁にチャレンジして見事、製品化

エマルジョンタイプ(エポクロス® Kシリーズ)は特定用途には非常に好評だったのですが、架橋密度に限界があったため、広く用途展開を図るということができませんでした。

そこで、1993年に、Kさんたちの研究チームは初期に導入した技術にはない水溶性タイプのポリマーの研究を開始することにします。ただ、当時、オキサゾリンモノマーは水中でのオキサゾリン基の加水分解が非常に速く、水溶液化はできないと考えられていました。実は海外の研究者と本研究について議論する機会があり、その研究者からも「オキサゾリンモノマーの加水分解速度が速いので、我々は無理だと判断してテーマを中断した。やっても無駄だと思うよ」と言われていました。

しかし、Kさんたちは、自分たちだからできることが必ずあると諦めず、研究を進めます。一旦ポリマー化した後のオキサゾリン基は、モノマーの状態より加水分解性が極端に低いこと、さらに、水とアルコールの混合溶媒中ではオキサゾリン基の加水分解速度が遅くなることをつきとめます。そしてついに、1996年に水溶性タイプの製品エポクロス WSシリーズを完成させたのです。
「あのとき本気で解決を目指さず浅い検討でテーマを見極めてしまっていたら、この新規素材が生まれることはなかった」とKさんは当時を振り返ります。

以降、水溶性タイプ(エポクロス® WSシリーズ)は、世の中のVOC規制やPL法の成立等を背景として、水系ポリマーの普及の風にのって販売を広げていきました。

製法転換で増産と品質向上を達成

当社の保有するエポクロス®のシリーズに、オキサゾリン基架橋性ポリスチレン(エポクロス® RPSシリーズ)があります。この製品は、当初はダウ・ケミカルから導入した技術である懸濁重合により、製造を行っていました。しかし、生産性が低く、また、使用する添加剤の影響で品質が低下することが問題でした。
そこで、Kさんたちは、大手ユーザーの採用をきっかけとして、RPSシリーズの製法転換による増産と品質の安定に取り組むことにしました。

ただ、従来の製造方法で製品供給しながら製法転換するという取り組みでしたので、開発スケジュールも大変厳しく、実験室での製造処方の確立からパイロットテスト、さらに、商業運転と目まぐるしい日々だったそうです。また、顧客が求めるスペックが非常に厳しく、ロット差による品質ブレでなかなかOKがでず、試行錯誤の連続でした。
しかし、ついに、1999年に溶液重合による新製法を確立。大手ユーザーへの供給を開始したのです。
そのタイミングが大手顧客の増産スケジュールとマッチして、RPSシリーズは売上を伸ばしていきました。

エポクロス事業の生命線であったモノマー製造技術の確立

当社が世界で唯一オキサゾリン基架橋性ポリマーを製造している理由の1つに、オキサゾリンモノマーの自社製造ということがあります。ここにエポクロス®の事業化のもう一方の立役者であるAさんのチームによる奮闘がありました。このオキサゾリンモノマーは、加水分解性を含めて取り扱いが非常に難しい物質です。ライセンス元であるダウ・ケミカルのライセンス先への要件に、「オキサゾリンモノマーの取り扱いができる技術を保有していること」という条件があったほどでした。

オキサゾリンモノマーの製造技術開発は1989年に着手したのですが、ダウ・ケミカルから開示された技術では、反応蒸留での重合・分解と、反応中の発泡の抑制ということが大きな課題として残っていました。
特に反応蒸留については、社内の研究者からも難しすぎるのでは?と懸念の声が上がっていたのです。また、反応蒸留で生成したオキサゾリンモノマーが発熱するという現象もAさんたちの頭を悩ませました。ラボレベルで発熱についての原因究明を行い、安心してパイロットスケールで反応した際に、オキサゾリンモノマーが発熱したときには本当に肝を冷やしたのでした。

それでも、Aさんたちは、オキサゾリンモノマーに最適な重合禁止剤を見つけ出し、発泡を抑制するために溶剤の検討や撹拌機の検討など試行錯誤で繰り返し実施。ようやく、パイロットから実プラントまでこぎつけ、1997年にオキサゾリンモノマープラントが完成することになるのです。

Aさんはこう振り返ります。「エポクロス®が事業化して拡販する中で、オキサゾリンモノマーの自社製造は必須要件だった。当時は無我夢中でラボからパイロット、実プラントまで進めたが、時間があれば、もう少しうまくできたこともあったかも…」と、とても懐かしそうな様子でした。

研究者たちの努力により花開いた製品

Kさんは、エポクロス®の開発について、次のように回顧しています。
「僕たちの場合、オキサゾリン基をポリマーに導入したことが成功のポイントだった」
オキサゾリン基に着目して製品化した企業はたくさんありましたが、低分子量のオキサゾリン架橋剤がすべて市場から消えていきました。
研究者がオキサゾリン基という特殊な反応基に真摯に向き合い、その能力を最大限に発揮するために努力を重ねた結果が、エポクロス®という製品を世に生み出したのです。

Kさんたちは後に、この業績によって近畿化学協会の化学技術賞を獲得しました。

当社のエポクロス®は、コーティング、粘・接着剤、塗料・インキ、プライマー、顔料捺染、不織布用バインダー、タイヤコード、熱可塑性樹脂の改質など様々な用途で機能向上に貢献しています。