トナー用バインダー樹脂 印刷機器メーカーT社 開発部

トナーの定着温度を下げたいが、機器へのトナー付着や保存安定性の低下が懸念され…

ガラス転移温度でガラス状態からゴム状態に急速に変化して、低温定着と保存安定性の両立が期待できるポリマー技術

塗料・コーティング
分散・凝集・粘度 耐久性・安定性

プリンターやコピー機を製造・販売するT社。オフィス向け複合機のCO2排出削減の取り組みとして、自社の電子写真方式のコピー機やプリンターに使用するトナーの環境対応をアピールするため、従来から課題であったトナー定着の低温化に取り組むことになった。開発部では、バインダー樹脂の選定を行ったが、難問に直面していた。

※本事例は想定事例ですが、似たようなお悩みの方々へのご参考として掲載しています

課題

トナーの定着温度を下げるには!?アクリル系バインダーの色彩の鮮やかさを生かして、定着性の低温化を目指したが…

これまでトナー定着の低温化のため、トナー物性改善やドラム設計による熱効率の向上など様々な改良を繰り返してきました。
今回、また低温化にチャレンジすることになり、T社の開発部のIさんは、トナー定着の低温化の課題を次のように考えていました。
「トナーの定着温度を下げると、トナーが紙にしっかりと定着しないことにより、文字や画像が滲んだり、剝がれやすくなります。特に、高解像度の印刷が求められる場合には、よりこの問題が顕著となります」
また、「トナーの定着温度を下げると、定着に時間がかかり印刷速度の低下につながります」

開発部では、定着性の低温化のポイントはバインダー樹脂を設定温度ですばやく溶融させる必要があると考えていました。
一般にトナー用のバインダー樹脂としては、アクリル系樹脂とポリエステル系樹脂が使用されています。
アクリル系樹脂は、透明性に優れていてカラー印刷の色彩が鮮やかになり、柔軟性が高いことからトナーの紙への定着性が高い傾向にあります。一方、比較的、耐熱性が低く、印刷物の耐久性や保存環境下での性能低下が課題になります。
ポリエステル系樹脂は、耐熱性が高く、印刷物の劣化が少なく、低温定着性が比較的高い傾向にあります。一方、透明性がアクリル系より劣るため、カラー印刷の色彩の鮮やかさが劣る傾向にあります。

開発部では、両方のバインダー樹脂の特徴を検討して、アクリル系樹脂の色彩の鮮やかさに加えて、低温定着性を達成することにより、新しい製品としての訴求力が高くなるという結論となり、アクリル系樹脂での低温定着に取り組むことに決定しました。

早速、付き合いのあるバインダー樹脂メーカーに開発コンセプトを相談したところ、トナーをこれまでより低温で融かすという要求仕様から、従来品よりガラス転移温度(以下、Tg)を下げたサンプルの提案を受けました。
その時の状況をIさんは次のように振り返ります。
「入手したバインダー樹脂サンプルを使って、いくつかのトナーサンプルを試作して、評価してみました。確かに、これまでより低温で溶融しやすくなりました。しかし、トナーが定着ローラーへ付着して、頻繁にローラーのメンテナンスが必要になったり、紙に転写されずに残ったトナーを回収するクリーニング工程でクリーニングブレードにトナーが付着して、印刷品質に影響がでることが懸念されました。また、試作したトナーを室温で保存中に、トナーが凝集してしまう問題も発生する状況でした」

既存のサプライヤー以外にも様々なバインダーメーカーに定着を低温化できるアクリル系樹脂についてあたってみましたが、バランスのとれたアクリル系樹脂を見つけることができません。進捗がスケジュールから大きく遅れていることもあり、開発部メンバーは焦りを感じていました。

課題のポイント

  • 環境対応をアピールするため、トナー定着の低温化に取り組むことになった

  • 色彩の鮮やかさと低温定着のために、アクリル系樹脂で検討することになった

  • Tgの低いアクリル系バインダー樹脂を使用すると、定着ローラーやクリーニングブレードへのトナー付着、保存安定性の低下が発生した

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