水性インキの密着性向上 包装用フィルムメーカーA社 開発部
市場ニーズに応えて、フィルム材の印刷に水性インキを使用したいが、難題が…
インキの定着性と耐擦傷性が改良できた画期的なポリマー。その可能性とは?

消費者のライフスタイルの変化から、食品の個包装、少量パッケージなどの軟包装材の利用が増えている。これら少量多品種の印刷には版が不要なインクジェット等のデジタル印刷が有利である。包装用フィルムメーカーA社にも、食品やプリンターメーカーからのインクジェット印刷に関する問い合わせが増えており、A社の開発部はその対応に追われていた。
課題
安全面を考慮して水性インキを使いたいが、フィルム材への定着が悪く…
問い合わせの多くは、軟包装用のフィルム材で、水性インキの印刷性に優れ、安全性が高いものはあるか、という内容でした。なぜなら、包装対象が食品であることや、環境負荷、作業員の暴露の問題により、近年では溶剤系インキから水性インキへの使用頻度が増加傾向にあったためです。しかし水性インキは、耐擦傷性が不十分で歩留まりが悪いという欠点がありました。
開発部は早速、いくつかの一般的なフィルム材で水性インキを使用した印刷を実施し、評価をすることにしました。開発部のメンバーの一人、N氏はこのときの状況を次のように語ります。
「評価を重ねた結果、従来の溶剤系インキと比較してインキ中の顔料および樹脂と極性の低い軟質エチレンやOPP(配向性ポリプロピレン)等の基材フィルム間で密着性が低く、インキが定着しにくいことが確認できました」
そこで、密着性を上げるためにいくつかのアンカーコート剤をフィルムの表面に塗布する対策を試みます。しかし、N氏たちが知見のあるイソシアネート系のアンカーコート剤で試したところ、密着性は向上できましたが安全面での懸念が残りました。
N氏たちは「まだ見逃している材料があるかもしれない」と、情報収集を続けました。
課題のポイント
フィルム印刷のインキを溶剤系から水性に変更したいが、耐擦傷性が不十分で定着性が弱く、歩留まりも悪い
知見のあるイソシアネート系のアンカーコート剤は、密着性は向上するも安全面での懸念が残る