
紫外線吸収剤内包ナノエマルション
紫外線吸収剤を内包したナノサイズのエマルション
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繊維の劣化・変色対策 繊維メーカーB社 開発部
光による退色や強度低下から繊維を守るナノエマルション技術とは?
繊維メーカーのB社。開発部に所属する研究員のTさんは、繊維の加工技術の研究を担当している。Tさんの元に、得意先から紫外線など光による劣化対策の相談があった。
得意先のメーカーからB社に、衣料品やカーテン向けに高い耐光性が必要な繊維の開発依頼がありました。特に紫外線に起因する退色や変色、強度低下を抑制できる繊維を検討してほしいという依頼でした。
繊維製品の中でも、ジャケットやコートなどの外衣類やカーテンなどは、光に対する十分な耐性が必要になります。繊維製品は長期間にわたり紫外線などの光が当たると繊維が劣化して退色や変色が発生し、劣化が進行すると繊維の強度が低くなることも知られています。
開発を担当していたTさんは、当時の様子をこのように振り返りました。
「早速、既存技術の洗い出しを行いました。耐光性を上げるために、繊維に酸化チタンなどの無機微粒子を練りこむ方法や、紫外線吸収剤を繊維に固定する方法が一般的です」(Tさん)
「どのように段取りしても耐光性の評価や、洗濯試験後の評価には時間がかかるので、早急に試作の方向性を決めたいと思っていました」(Tさん)
Tさんは、酸化チタンなどの無機微粒子では、可視光が散乱したり、白っぽく見えたりするという課題があることから、紫外線吸収剤を繊維に固定する方針で検討を開始しました。
紫外線吸収剤を繊維に固定する場合、紫外線吸収剤を含む液体を浸透させ、乾燥・加熱して固定する方法や、紫外線吸収剤を含む樹脂を繊維表面に塗布してコーティングする方法、紡糸段階で紫外線吸収剤をポリマーに混合して繊維に取り込む方法などがあります。
一方、B社の製造工程においても薬液を浸透させ加熱・乾燥させる工程を取っており、環境への配慮から、薬液は水系であることが必要でした。水溶性の紫外線吸収剤は存在するものの、使用時の水濡れや洗濯時の耐久性を考えると、非水溶性の紫外線吸収剤が好ましいとTさんは考えました。しかし、この紫外線吸収剤を均一に水に分散して、繊維に均一に固定することが課題です。
紫外線吸収剤を分散剤などで分散させる方法や、水溶性のポリマーバインダーを使用して分散させる方法、強制的に乳化して分散させる方法など、色々検討してみましたが、均一に分散して、繊維に加工後にも十分な持続効果が発揮できる方法がなかなか見つかりません。
また、今回の要求の耐光性を確保するためには、一定量以上の繊維への紫外線吸収剤固定が必要であることがわかり、ますますハードルが上がる状況でした。Tさんは焦りを感じます。
高耐光性が求められる繊維の開発依頼があり、光の影響で発生する退色や変色、強度低下を抑制したいとのことだった
耐光性を向上させる技術として、紫外線吸収剤を繊維に固定する方法を選択して検討を進めた
水系の薬液中に紫外線吸収剤を均一分散することが難しく、加工後の繊維に十分な持続効果を発揮できる方法が見いだせなかった
日本触媒の紫外線吸収剤内包エマルションは、紫外線吸収剤をナノエマルションに内包化しており高分散で紫外線吸収能の持続性が高い
紫外線吸収剤を最大30%程度分散することも可能
繊維の加工薬液が完成し、耐光性の高い繊維の加工技術が確立
Tさんは、部内の定期ミーティングで同僚の発表を聞いていました。すると、展示会に参加したメンバーが日本触媒の紫外線吸収剤内包ナノエマルションという製品展示を見てきたという報告がありました。製品名にピンときたTさんは、ミーティング終了後に展示会報告をしていた同僚に駆け寄ります。
「同僚から日本触媒の担当者の名刺を借りて、記載の連絡先に早速電話をしました。紫外線吸収剤内包エマルションは、その名の通り紫外線吸収剤をナノサイズのアクリルエマルションに内包化した技術であることから、水中の均一分散性が高く、紫外線吸収能の持続性が高い製品であると紹介を受けました」(Tさん)
Tさんは日本触媒の製品担当者と打ち合わせを行います。
「紫外線吸収剤を内包したエマルションを他の樹脂に添加して使用するタイプのサンプルと、エマルションを主剤としてそのまま使用するタイプのサンプルがあるとのことでした。時間が限られるので、希望のUV波長領域をカットできる紫外線吸収剤を内包化したバインダー不要な主剤タイプのエマルションのサンプル送付を依頼しました」(Tさん)
「紫外線吸収能の持続性を評価したデータの説明もしてもらったのですが、持続性については従来技術よりも大きな差があるようで、これは良いかもしれないと期待していました」(Tさん)
Tさんは、日本触媒から送付されたサンプルを用いて薬液を検討し、評価を進めます。薬液の取り扱い性も問題なく、繊維に均一に作用させることができました。また、乾燥後の繊維の色味も損なわれずに繊維の風合いを生かした表面処理が達成できました。
繊維の耐光性についても良好な結果が期待できそうで、特に繊維の強度低下の抑制効果が高いことにTさんは驚きました。
次の部内ミーティングで、Tさんは新たに開発した薬液の有効性を説明して、生産ラインへの移行を提案したいと思っています。