水性インキの性能向上 インキメーカーY社 研究部

硬化温度の低減化技術がきっかけで、水性インキに再検討されたオキサゾリン系架橋剤とは?

水性インキの耐水性・密着性を高めたい。ニーズに合わせて技術獲得した架橋剤の実力!

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密着・接着・粘着 分散・凝集・粘度

昨今、包装資材業界でも環境への配慮が求められており、リサイクルが容易な製品開発や製造工程でのCO2排出削減などの取り組みが進んでいる。軟包装材メーカーから、インキメーカーのY社に水性インキの性能向上について相談が入った。Y社では開発を進めるも…

課題

オレフィン系フィルム向け水性インキの、耐水性や密着性を向上させたいが・・・

包装資材業界では、リサイクルを容易にするために包装フィルムの単一素材化(モノマテリアル化)が進み、フィルム素材としてPPやPEなどオレフィン系フィルムを用いる事例が増えています。ある日、インキメーカーのY社のQさんに、得意先の日用品や化粧品用途のフィルムを製造する軟包装材メーカーから、水性インキの性能向上の相談が持ち込まれました。

当時のことをQさんはこのように語ります。
「依頼内容は、水性インキの乾燥後の印刷塗膜の耐水性や密着性を改善して欲しいというものでした。ここ数年、安全面やVOC規制への対応などで、水性インキに注目が集まってきています」(Qさん)

Y社ではQさんの開発チームが本案件を担当することが決まり、チームメンバーで議論して耐水性や密着性を改善するために、現在のインキ組成に架橋剤を添加して、熱硬化を検討することとしました。

「得意先へのヒアリングで、使用されるフィルム材料はPETなどより耐熱性が低いPPやPEであることがわかりました。フィルムへのダメージをできるだけ小さくするために、熱硬化工程の設定温度はできるだけ下げる必要があります」

「早速、架橋剤の選定を始めました。さらに、現行のインキのバインダー樹脂がカルボキシ基を持つため、カルボキシ基と反応する架橋剤を選択することを決めました」(Qさん)

手分けして複数の架橋剤を検討します。しかし、密着性や耐水性が不十分だったり、時間が経つとインキの粘度が上昇したり、架橋剤を添加した後のポットライフが短くなってしまうものがあるなど、課題が見つかりました。

「開発に行き詰まりを感じていたとき、以前オキサゾリン系のエポクロス®WSを評価したことを思い出しました。当時、エポクロス®WSは添加後のポットライフが良好で、硬化後の塗膜の耐水性や耐溶剤性、密着性に優れていて、良い性能を達成できたのですが・・・」

「エポクロス®WSが十分な性能を達成するために、100℃を超える硬化温度が必要であったため、残念ながら今回必要としている熱硬化工程の条件にはマッチしないかなと思いました」(Qさん)

Qさんらチームメンバーは、エポクロス®WSの性能に可能性を感じるも硬化温度の課題が壁になり、あきらめざるを得ない状況でした。

課題のポイント

  • 環境対応強化のため、軟包装材メーカーより水性インキの性能向上の依頼があった

  • 水性インキの性能向上にはインキに架橋剤を添加する方針で検討することになった

  • フィルム基材はPPやPEといったオレフィン系フィルムがターゲットであり、架橋剤を反応させる硬化温度はできるだけ下げる必要がある

解決

解決のポイント

  • 日本触媒でオキサゾリン系の架橋剤の硬化温度の低減化技術を開発、以前の100℃ではなく、80℃程度での架橋が可能となった

  • エポクロス®WSのオキサゾリン基がバインダー樹脂のカルボキシ基と反応することにより、塗膜の密着性や耐水性、耐ブロッキング性が達成

そんな中、以前から情報交換を継続していた日本触媒の研究担当から、エポクロス®WSに関して硬化温度の低減化技術を開発したので、是非一度紹介したいという連絡が入ります。

「早速、担当者に話を聞いてみたところ『エポクロス®WSの硬化温度を下げてほしいとの要望が多く、技術検討を行った』『比較的簡便な加熱処理で、樹脂中のカルボキシ基とエポクロス®WS中のオキサゾリン基の反応性が大きく向上』という、まさに今求めていた情報でした」

「さらに『所定の処理後の保存安定性も問題なく、従来のポットライフも確保することができている』とのことで、すぐにエポクロス®WSの再検討に入りました。」(Qさん)

Qさんたちはバインダー樹脂にエポクロス®WSを添加して、日本触媒が推奨する加熱処理方法を活用し、インキの試作品を製作します。

「加熱処理後のインキの粘度上昇を心配していたのですが、全く問題ありませんでした。80℃程度の硬化温度で課題であったインキ塗膜の性能向上も達成できました。エポクロス®WSを架橋剤の本命として、インキの完成の見込みが立ってきたのです」(Qさん)

Qさんのチームでは、フィルムメーカーに試作したインキの評価を依頼しています。また、今回の硬化技術を適応して、より厳しい密着性が求められるプライマーにもエポクロス®WSの添加をしてはどうかという議論をしており、エポクロス®WSの使用が広がりそうです。

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